2025.06.11
みなさんは歯科で、もしくは家族やパートナーから歯ぎしりしていると言われて驚いたことはありませんか?
自分はそんなことしていないはず、と思う方も多いでしょう。実は、歯ぎしりや食いしばりはほとんどが無意識下で行われているため、自覚がないまま進行してしまうケースが非常に多いのです。
歯ぎしりや食いしばり(医学的には「ブラキシズム」と呼ばれます)は、単なるクセではなく、歯や顎、全身にまで影響する可能性のある「症状」です。
今回のブログでは、なぜ歯ぎしり・食いしばりが起こるのか、どのような悪影響があるのか、どうやって治すのか、そして普段からできる予防法について詳しく解説していきたいと思います。
目次
まず混同されがちなこの2つの違いから整理します。
歯ぎしりとは、主に睡眠中に上下の歯を強くこすり合わせる動作のことを言います。ギリギリと音がすることが多く、家族やパートナーから指摘されて気づくケースが多いです。
一方、食いしばりは上下の歯を強く噛みしめる動作です。音は出ないため、自分でも気づきにくいのが特徴です。
日中、仕事中やスマホを見ているときなどに無意識にしている人が多いです。
どちらも「歯を必要以上に強く接触させる」という点で共通しており、口腔内だけでなく体全体にも悪影響を及ぼすことがあります。
1回の食いしばりでかかる力はなんと体重の2~3倍(100kg以上)とも言われています。
歯ぎしり・食いしばりは、大きく3つのタイプに分けられます。
ギリギリ、ギーギーなど、横に歯を擦り合わせるタイプです。歯が削れてすり減ってしまったり、顎関節に負担がかかることがあります。
上下の歯を強く噛みしめるタイプです。特にストレスの多いときや集中しているときに無意識に行われます。
上下の歯を小刻みに接触させる動作で、比較的少数派です。
原因は一つではなく、さまざまな要因が重なって起こることが多いです。
現代人に最も多い原因がストレスです。
脳がストレスを感じると、体はそれに反応して筋肉を緊張させることで無意識に対処しようとします。顎の筋肉もその一部です。
また、睡眠中は脳がストレスを処理する時間でもあり、その過程で歯ぎしりが起きやすくなるとも考えられています。
歯並びが乱れていると、上下の歯のかみ合わせにもズレが生じ、顎が安定せず、無意識のうちに歯をすり合わせたり、強い力で噛みしめてしまうことがあります。
また、歯の欠損や詰め物・被せ物が合っていない場合にも、噛み合わせのバランスが崩れ、歯ぎしりや食いしばりの誘因になると言われます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)、浅い眠り(レム睡眠)が多いなど睡眠の質の低下も歯ぎしりの要因になります。
歯ぎしりは、脳が覚醒しかけたときに出やすいため、無呼吸や中途覚醒が多い人は注意が必要です。
うつむいてスマホを見る姿勢、いつも同じ側で噛むクセなども関係していることがあります。
また、スポーツ中や仕事中、運転中などに歯を食いしばるクセが習慣化し、そのまま無意識のクセになることもあるのです。
「ただのクセ」と思って放っておくと、思わぬトラブルを引き起こすことがあります。
歯のかみ合う面が平らな形になってしまいます。
これは「咬耗(こうもう)」と呼ばれ、噛み合わせが強いことで歯の表面のエナメル質が摩耗することによって起こります。
エナメル質は全身の中でもっとも硬い組織です。そのエナメル質がすり減るというのは相当な力が加わっていると考えられます。
また、強い力が一点に集中することで、歯にひびが入ったり、場合によっては割れてしまう「歯の破折」につながることもあります。
特に神経を抜いた歯や被せ物がしてある歯は天然歯と比べ脆くなっているため、歯ぎしりによる破折のリスクが高いと言えます。
最悪の場合、歯を抜かないといけなくなるケースもあるため、早期発見と予防が非常に重要です。
冷たいものや熱いものがしみるといった知覚過敏の症状も引き起こされます。
本来、歯の表面はエナメル質という硬い層で保護されていますが、強い力によってこの層が削れると、内側の象牙質がむき出しになります。
象牙質には無数の細い管(象牙細管)があり、そこを通って刺激が神経に伝わるため、痛みを感じやすくなってしまいます。
歯ぎしりや食いしばりにより、歯に強い横方向の力が加わります。
本来、歯は上下の力には強く作られていますが、横の力には弱いため、歯を支える歯根膜や歯槽骨が痛みやすくなってしまいます。
歯ぐきや骨に常に圧がかかると、炎症が治りにくくなり、慢性的な歯周炎に移行しやすくなります。
また歯ぎしりによって歯が動揺し、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)が深くなり、細菌が侵入しやすくなって歯周病の進行を加速させてしまうのです。
強い力で断続的に歯に横の力が加わることで、歯と詰め物や被せ物を接着しているセメントが少しずつ壊され、詰め物や被せ物が外れてしまうことがあります。
詰め物や被せ物が取れてしまう原因として、他にも接着がしっかりできていなかった場合や、詰め物や被せ物と歯の間が虫歯になってしまった場合なども挙げられますが、取れた詰め物や被せ物の下が虫歯になっていない、かつ、何度治療しても頻繁に外れてしまうような場合は、歯ぎしりが原因である場合が多いと考えられます。
顎の痛み、口が開きにくくなるなど、いわゆる顎関節症の症状が出たり、顔の筋肉がこる、頭痛や肩こりの原因になることもあります。
では、歯ぎしりや食いしばりにはどう対処し、予防すればいいのでしょうか?
歯科医院で作製するマウスピースは、就寝時に装着することで歯のすり減りや力の負担を軽減します。特に夜間の歯ぎしり対策として有効です。
通常、上下の歯はリラックスしている時は接触しておらず、2~3ミリの隙間があるのが正常です。
しかし、何もしていない時にもずっと上下の歯が接触している状態が続く方もいます。このような癖は、TCH(Tooth Contacting Habit、歯列接触癖)と呼ばれます。
TCHがある人の場合、舌の縁に歯の跡がつく(舌圧痕)、頬の内側に白い線状の跡や歯型のようなものができる(頬圧痕)、歯ぐきの骨が膨らむ(骨隆起)などといった症状が現れる場合もあります。
お口の中にこうした症状がある方は要注意です。まずはご自身がTCHをしていることを自覚していただき、歯を離すことを意識することから始めるのが大切です。例えばスマホのタイマーで1時間毎にリマインドするなど工夫してみましょう。
うつむいた姿勢や猫背は、顎に負担をかけます。デスクワークでは背筋を伸ばし、顔が前に出ないよう意識しましょう。
噛み合わせがズレていると、ある一部の歯に負担が集中し、食いしばりが悪化してしまうこともあります。必ず歯科医院で噛み合わせのチェックを受け、必要に応じて治療を受けることが大切です。
歯ぎしり・食いしばりは、自分では気づきにくいクセです。
しかし、放っておくと歯を失う原因になったり、身体全体に不調をもたらすこともあります。
「朝起きると顎がだるい」「歯がすり減っている気がする」など、気になることがあれば、ぜひ一度歯科医院で相談してみてください。
早めの対策が将来の大きなトラブルを防ぎます。歯と体の健康を守るために、ぜひ今日から意識してみてください。
すずき歯科では、マウスピースの作製や噛み合わせのチェック、生活習慣に関するアドバイスなど、患者様一人ひとりに合った対策をご提案しております。
気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。スタッフ一同心よりお待ちしております。
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