2026.01.01
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「健康寿命」という言葉を、最近になって耳にする機会が増えてきました。健康寿命とは、介護や支援を必要とせず、自立した生活を送ることができる期間のことを指します。しかし、この言葉が広く使われるようになる以前から、私たちにとってより馴染み深い指標として知られているのが「平均寿命」です。
平均寿命とは、0歳の人がその後、平均して何年生きられるかを示した数値です。ニュースや統計資料などで「日本人の平均寿命は〇〇歳」と報道される際に使われているのが、この平均寿命です。あくまでもこれは出生時点での平均値であり、すべての人がその年齢で亡くなるという意味ではありません。
ここで、もう一つ重要な指標として知っておきたいのが「平均余命」です。平均余命とは、現在の年齢から数えて、あと何年生きられるかという平均値のことをいいます。たとえば、0歳の人の場合は、これから生きられる年数がそのまま平均寿命になるため、「平均余命」と「平均寿命」は同じ意味になります。
しかし、年齢を重ねていくと、この二つの数字の関係は少し変わってきます。実は、年齢が高くなるほど、「平均余命」に自分の年齢を足した数字は、平均寿命よりもやや大きくなるという特徴があります。一見すると不思議に感じるかもしれませんが、これは統計上ごく自然な現象です。
その理由は、ある年齢まで無事に生きてきた人たちは、すでに大きな病気や事故のリスクを乗り越えてきた集団であるためです。たとえば、70歳の人の平均余命は「平均寿命-70歳」よりも長く設定されます。つまり、70歳まで生きているという事実そのものが、「今後も比較的長く生きる可能性が高い人たち」であることを示しているのです。
言い換えると、年齢を重ねるごとに、平均余命は“残された短い時間”を意味する数字ではなくなっていくということです。少なくとも、現在この文章を読んでいる皆さんは、その年齢まで健康に生きてこられたという点において、統計的に見れば「平均寿命を超えて生きられる可能性が高い人たち」だと言えます。
だからこそ、これからの人生で重要になってくるのが、「どれだけ長く生きるか」だけではなく、「どのように生きるか」という視点です。単に寿命を延ばすことよりも、日常生活を自分の力で送り、食事や会話を楽しみながら過ごせる期間をいかに長く保つかが、これからの健康を考えるうえで大切なテーマとなります。
平均寿命や平均余命は、私たちの将来を知るための一つの目安に過ぎません。しかし、こうした数字の意味を正しく理解することで、年齢を重ねることに対する不安を必要以上に抱えず、前向きに健康づくりに取り組むきっかけにもなります。そして、その土台となるのが、日々の生活習慣や体のケア、さらには口腔内の健康を含めた総合的な健康管理なのです。
「食べる」「話す」「笑う」を支える口腔の役割口腔は、食事をするための入り口であるだけでなく、
・食べ物を噛み砕く
・味を感じる
・飲み込む
・言葉を発する
・表情をつくる
といった、日常生活に欠かせない機能を担っています。
歯が少なくなったり、歯ぐきが弱ったり、入れ歯が合わなくなったりすると、これらの機能が低下します。その結果、食事が楽しめなくなる、会話が億劫になる、人と関わる機会が減るといった悪循環に陥りやすくなります。
これは単なる「お口の問題」ではなく、心身の健康全体に影響する問題なのです。
「歯が抜けてしまう原因は虫歯」と考えている方は少なくありません。確かに虫歯も歯を失う原因の一つですが、実際には日本人が歯を失う最大の原因は「歯周病」であることが分かっています。特に中高年以降では、虫歯よりも歯周病によって歯を失うケースの方が圧倒的に多くなります。
歯周病とは、歯の周囲に付着した歯垢(プラーク)に含まれる細菌によって、歯ぐきや歯を支えている骨(歯槽骨)が少しずつ破壊されていく病気です。初期の段階では自覚症状がほとんどなく、痛みも感じにくいため、「気づかないうちに進行している病気」とも言われています。
歯ぐきの腫れや出血があっても、「歯みがきの時に血が出るのはよくあること」「疲れているだけだろう」と軽く考えてしまい、受診のタイミングを逃してしまう方も多いのが現状です。しかし、こうした小さなサインこそが、歯周病の始まりであることが少なくありません。
その結果、歯科医院を受診したときにはすでに、
・歯がグラグラと動いている
・歯ぐきが大きく下がり、歯が長く見える
・歯と歯のすき間が広がってきた
・出血や膿、強い口臭が気になる
といった、歯周病が進行した状態になっていることも珍しくありません。この段階まで進むと、歯を支える骨が大きく失われており、治療を行っても歯を残すことが難しくなるケースもあります。
歯周病によって歯を失ってしまうと、単に「歯が一本減る」という問題にとどまりません。噛み合わせのバランスが崩れ、残っている歯に過剰な負担がかかることで、さらに歯を失いやすい状態を招いてしまいます。また、噛む力が低下することで、硬いものや繊維質の多い食品を避けるようになり、食事内容が自然と偏りがちになります。
その結果、タンパク質やビタミン、ミネラルが不足しやすくなり、低栄養や筋力低下(サルコペニア)につながるリスクが高まります。筋力が落ちると転倒しやすくなり、活動量も減少し、要介護状態へと進みやすくなってしまいます。このように、歯周病による歯の喪失は、健康寿命を縮める大きな要因の一つなのです。
しかし、歯周病は適切なケアと定期的な歯科受診によって、予防や進行の抑制が十分に可能な病気でもあります。早期に発見し、正しいブラッシングや専門的なクリーニングを継続することで、多くの場合、歯を守り続けることができます。
歯を守ることは、単にお口の中をきれいに保つことではありません。「しっかり噛んで食べる」「栄養をきちんと摂る」「元気に動き続ける」という、健康的な生活の土台を守ることにつながります。だからこそ、歯周病を軽く考えず、早めの対策を心がけることが、将来の健康寿命を延ばす第一歩になるのです。
近年の研究では、歯周病などの口腔内の炎症が、以下のような全身の病気と関係していることが分かっています。
・糖尿病
・心筋伷塞、脳伷塞
・誤嚥性肺炎
・認知症
特に高齢者に多い誤嚥性肺炎は、口腔内の細菌が唾液と一緒に気道に入り込むことで起こります。お口の中を清潔に保つことは、命に関わる病気の予防にもつながるのです。
また、歯がしっかり残っている人ほど、認知機能が低下しにくいという報告もあり、「噛むこと」が脳への刺激として重要であることが注目されています。
最近では、「口腔機能低下症」という概念も広く知られるようになってきました。これは、加齢や生活習慣の影響によって、
・噛む力
・飲み込む力
・舌や唇の動き
などが低下している状態を指します。
口腔機能の低下は、フレイル(虚弱)や要介護状態への入り口とも言われており、早期発見・早期対応がとても重要です。
健康寿命を延ばすために、特別なことを始める必要はありません。大切なのは、日々の積み重ねです。
1.毎日の丁寧な歯みがき
歯だけでなく、歯ぐきとの境目を意識して磨きましょう。
2.定期的な歯科検診・メンテナンス
痛みがなくても、定期的に歯科医院でチェックを受けることが大切です。
3.よく噛んで食べる習慣
噛む回数を増やすことで、口腔機能や脳への刺激が保たれます。
4.違和感を放置しない
歯のグラつき、出血、入れ歯の不調などは早めに相談しましょう。
口腔内の健康は、単に歯を守るためだけのものではありません。
「食べる楽しみ」「人と話す喜び」「自分らしく生きる力」を支える、人生の基盤です。
健康寿命を延ばすためには、体の健康と同じくらい、お口の健康に目を向けることが欠かせません。今のお口の状態が、10年後、20年後の生活の質を大きく左右します。
ぜひこの機会に、ご自身やご家族のお口の健康について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
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