歯科コラム

『お口ぽかん』が良くない理由、知っていますか?

2024.09.09

すずき歯科は年に2回、保育園の歯科健診を担当しています。

元気でかわいらしい園児の皆さんと接して、私たちがいつも元気をもらいます。

そんな子どもさんを診ていて、いつも気になっていることがあります。

それは、『お口が開いている』『お鼻で呼吸できない』『お顔もお口も歯並びも小さい』ということです。

小顔で垂れ目気味だったり、ちょっとぽっちゃりたらこ唇から白い歯が少し見えるような、そんな感じの子どもさん、多いです。

【お口ぽかんの子どもたち】

子どもさんを健診するとき、まずは椅子に座ってもらい、ご自身でお名前を言ってもらいます。

この時すでに、その子の状況把握は始まっているのです。

背筋を伸ばして椅子に座れるか、そのまま体幹を保てるのか、お口(唇)は閉じているか、お腹から声は出ているか、発音はどうか、等々。

この時点で、ある程度歯ならびや咬み合わせの想像ができるのです。

お子様がいらっしゃる方は確認してみてください。

ごはんを食べるとき、背筋を伸ばして座れていますか?すぐに姿勢がぐにゃっと崩れてしまいませんか?

口を閉じてしっかりもぐもぐごっくん食べていますか?クチャラーになっていませんか?

食事の途中でよくお水を飲んでいませんか?

夏なのに唇が乾燥していませんか?

たらこ唇で赤唇(唇の内側の赤い粘膜部分)が見えていませんか?

無意識のときに、上唇と下唇の間から白い歯がこぼれて見えませんか?

これらは、『お口ぽかんの子どもさんあるある』なのです。

【なぜお口ぽかんが良くないの?】

お口ぽかんの子どもさんは、優しい目元とぽっちゃり唇、歯がちょこっと見えていて本当にかわいらしいです。

でも、お口ぽかんは『口腔機能発達不全症』という病気の症状のひとつなのです。

では、なぜお口が開いていると良くないと言われるのでしょうか?

あらためてその理由をお示しします。

①全身の健康への悪影響

ヒトは本来、鼻から空気(酸素)を身体に取り込みます。

鼻は空気に混じったほこりや汚れ、菌やウイルスや有害な化学物質などを身体に入れないようにするフィルタの役割を持っています。

また、お鼻を通ることで空気が適度に湿り温度も調整されます。

お口ぽかんの人は、この優秀なフィルタを通さず、空気を口からダイレクトに身体の中に取り込んでいるのです。

お口から吸い込む空気の中に風邪やインフルエンザのウイルスが含まれていたら?想像がつきますね、酸素と一緒にウイルスが身体の中に侵入することを許してしまいます。

お口ぽかんの人は風邪やインフルエンザに罹りやすく、お口を閉じるようにトレーニングすると罹患率が減少したというデータもあります。

もちろん、お口から侵入してくる外敵に対して、ヒトは扁桃腺という素晴らしい防御機構を持っています。

扁桃腺が腫れるのは、身体に有害なものが侵入してきたときの免疫応答、つまり喉で外敵と身体の免疫が最前線で戦った結果なのです。

扁桃腺が腫れるとお熱が出たり身体が疲労したり、色々大変です。

それに比べてお鼻のフィルタは省エネかつ優秀です。

お鼻から息を吸って腫れたり高熱が出たり身体がぐったりとはなりません。

また、お口ぽかんの人は、お口から空気を取り込む効率を上げるため、猫背になりやすいのです。

背筋をぴんと伸ばして顎を引いた姿勢でお口を開けてみてください。

とても開けにくいはずです。

猫背になると肺や横隔膜などの内臓が圧迫されて呼吸が浅くなる傾向になります。

軽い酸欠状態になるので、身体は酸素を欲します。

すると、もっと空気を、酸素を取り込もうとするために、お口からの吸い込みを増やそうとします。

口呼吸の悪循環の始まりです。

歯科とお口ぽかんの直接的な関連は、まず、むし歯や歯周病、口臭、歯の着色の原因となります。

お口が開いて空気がどんどん通るため、お口は乾燥します。

お口を潤す唾液は、潤いだけでなく抗菌作用やお口の汚れの洗い流し作用がある働き者なのですが、お口が乾燥するとその恩恵を受けづらくなります。

でも、お口ぽかんが歯科においていちばん良くないのは、次からお話する歯ならびとの関連だと考えます。

②歯ならびへの悪影響

お子様の成長において、歯ならびはどうやって作られていくか、あらためて確認しましょう。

歯は、萌えてくると同時に、食べたり呼吸したりおしゃべりしたり、周りから色々な力を受けながら、その位置を決めていきます。

具体的には、唇の力、頬の力、舌の力のバランスの上に成り立ちます。

歯のポジションは力のバランスの最終結果です。

唇も頬も舌も筋肉がたくさんついているのですが、それらの筋肉の量や筋力が少なかったり、本来と違う筋の動きをすれば、バランスが崩れて歯が本来ならんでほしいところにならばなくなるのです。

お口ぽかんの人は、まず、唇が閉じていないので前歯を唇で良い位置に押さえる力が足りません。

その結果、前歯が出っ歯やすきっ歯になりやすいと言えます。

また、ヒトは安静にしているときやごっくん飲み込むとき、舌先は上の前歯の後ろのひだ(スポットと言います)について、舌体とよばれる舌の中頃の部分までは上あごの天井にぺたんと付いています。

そのとき、上下の歯は噛みしめず少し隙間が空いていて、唇を閉じて鼻から呼吸するのがお口周りの筋肉バランスが取れた状態です。

舌が上あごに引っ付いて舌の筋力で押すことによって、上あごは幅を拡げていき、骨が成長します。

これによって歯がならぶゆとりができてくるのです。

上あごの成長は小学校中学年〜高学年くらいまでと言われており、この時までに正しい舌ポジションと鼻呼吸を獲得しておくことが重要になります。

お口ぽかんの人は、舌が上あごにうまく引っ付いていません。

なので、上あごの拡がりが少なく、天井が深く高い(高口蓋と言います)状態で、歯ならびアーチが細く狭くなります。

その結果、唇のサポートもないことから歯が前に出るしかなく出っ歯になったり、狭いアーチに無理やり永久歯を萌えさせるため歯がガタガタに詰んでならびます(叢生(そうせい)と言います)。

また逆に、上あごに引っ付かない舌を下の歯や顎に押し付けて拡げる力が過剰にかかり、受け口になることもあります。

上あごに引っ付かない舌を上下の歯の隙間に挟んで咬んだ状態でごっくんする癖がつくと、常に上下の前歯が舌の厚み分空いて当たらないため、歯は咬む相手を探して延びてきます(挺出(ていしゅつ)と言います)。

その結果、前歯の角度が立って咬み合わせが深くなり、下あごの特に前方への動きを制限してしまうため、下顎が後方に下がりやすくなり、顎関節に痛みが出たり、気道が狭くなって将来の睡眠時無呼吸症候群に繋がりやすくなったりします。

気道が狭くなれば、身体に取り込む酸素の量が減るため、ますますお口を開けて空気を取り込みたくなりお口ぽかんになり、これまた悪循環の始まりです。

確認してみてください、お子様は、そしてご自身は、唇を閉じて呼吸できていますか?舌は上あごについていますか?

【お口ぽかんを治すには】

お口ぽかんは治さないと良くないこと、ご理解いただけたと思います。

では、実際にはどのようにすれば良いのでしょうか。

①耳鼻科疾患を治療しましょう

お鼻が詰まっている、鼻炎がある、扁桃腺が大きいと言われている、鼻中隔が曲がっているなど、鼻から空気が吸えない、または気道が狭くなり取り込める空気量が少ないならば、お口を閉じていては酸欠になり命の危険があるため、ヒトは口から酸素を取り込まざるを得ません。

まずはこれらの病気を治していくことが最優先です。

②唇を閉じる訓練、舌を挙げて上あごに付ける訓練をしましょう

唇も舌も筋肉ですから、トレーニングによって筋力アップをはかることが大切です。

舌を挙げて唇を閉じるための様々な筋機能訓練(MFT)がありますが、筋トレは大人も子どもも、自分を律して根気よく継続することは案外難しいです。

当院では、シンプルなトレーニング法である『あいうべ体操』と、プレオルソという特に上あごの成長期に効率よく筋トレして歯ならびの土台を作るための装置(機能的マウスピース型矯正装置)をお勧めしています。

装置を装着していれば筋トレになるので、子どもさんでも取り扱いが簡単で継続しやすい上に、矯正装置として歯ならびや咬み合わせの改善にもなります。

この装置についてはまたあらためてブログでご紹介させていただきます。

③舌小帯(舌の付け根のひだ)が短い場合は切除してトレーニングしましょう

舌のひだが生まれつき短く、上あごにくっつけたくても届かない人がいらっしゃいます。

このような方は、舌の機能がある程度かたまる小学校中学年までに、ひだを切除して舌の動く範囲を大きくする処置が必要な場合があります。

ひだを切除しておしまいではなく、舌の機能訓練を取り入れて発音、咀嚼(咬んで食材を喉に送る)、嚥下(ごっくん飲み込む)のトレーニングをする必要があります。

【まとめ】

お口を閉じてお鼻で呼吸することは、私たちがお口も身体も健やかに生活するためにとても重要です。

歯ならびのことを考慮するならばできるだけ子どもの時期からが望ましいのですが、成人された後でもトレーニングすることで鼻呼吸を獲得することは十分可能です。

お口ぽかんやそれに伴う歯ならびについてご質問、ご相談ございましたら、ぜひ当院にご相談ください。

すずき歯科は、皆様のお口だけでなくお身体の健康のお手伝いをさせていただきます。

投稿者:医療法人すずき歯科(tokushima-dent.jp)

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